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大阪地方裁判所 平成5年(レ)117号 判決

控訴人

坂本勉

被控訴人

株式会社高島屋工作所

右代表者代表取締役

松村文夫

右訴訟代理人弁護士

中山晴久

右同

夏住要一郎

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、三万一六七四円を支払え。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  控訴人は、被控訴人会社の大阪販売部統括課(以下「統括課」という。)に所属する従業員である。

2  控訴人は、次のとおり合計一三・五時間の時間外労働を行った。

(一) 就業時間後の時間外労働(内容・受発注、片付け、その他の業務(以下「本件就業時間後の時間外労働」という。))

(1) 平成四年三月二四日 午後五時四〇分から同六時〇五分まで

(2) 同月二六日 右同

(3) 同月二七日 午後五時四〇分から同六時二〇分まで

(二) 昼間休憩時間中の時間外労働(内容・受発注の整理、その他の業務(以下「本件昼間休憩時間中の時間外労働」という。))

(1) 平成四年三月一二日 午後零時から同一時まで

(2) 同月一三日 右同

(3) 同月一六日 右同

(4) 同月一七日 右同

(5) 同月一九日 右同

(6) 同月二〇日 右同

(7) 同月二三日 右同

(8) 同月二四日 右同

(9) 同月二六日 右同

(10) 同月二七日 右同

(11) 同月三〇日 右同

(12) 同月三一日 右同

3  控訴人は、右時間外労働を、被控訴人(統括課長七々瀬政美(以下「七々瀬課長」という。))から、黙示の時間外労働命令を受けて行った。

4  右時間外労働に対する割増賃金は、三万三一〇八円(計算式・一時間当たりの基準賃金一九六二円×〇(ママ)・二五×一三・五時間)であるので、控訴人は、被控訴人に対し、三万三一〇八円の割増賃金請求権を有する。

5  よって、控訴人は、被控訴人に対し、右割増賃金の三万三一〇八円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否等

1  請求原因1は認める。

2(一)  同2、3は否認する。

(二)(1)  被控訴人会社においては、時間外勤務及びその際の超過勤務手当の支給については、就業規則一七条一項、同二一条において次のとおり定めている。

第一七条一項

第一〇条及び第一四条の定めにかかわらず、業務の都合によって早出、残業、臨時呼出又は休日に勤務させることがある。職員は特別の理由がない限りこれに従わなければならない。

第二一条

第一七条及び前条の定めによって時間外、深夜又は休日に勤務させた場合は、給与規程の定めるところによって超過勤務手当を支給する。

(2) 具体的には、次のような手順で時間外勤務を行うことになっている。

ア 時間外勤務が必要と考える場合、当該職員は所定の届出用紙(〈証拠略〉・時間外カード)に記入して、直属の課長に対してその旨申請する。

イ 課長はその必要性を認めた場合、時間外勤務を命じる。

ウ 時間外勤務後、当該職員は右時間外カードに時間外勤務時間数を記入して、課長に提出する。

エ 課長は、当該時間勤務した事実を確認の上、右時間外カードに承認印を押捺する。

そして、給与支給時には、右時間外カードに基づき、当月分の時間外労働時間を積算して、超過勤務手当を算定支給しているのである。

(三)  控訴人主張の本件就業時間後の時間外労働についての経緯は次のとおりである。

(1) 三月二四日

控訴人は、七々瀬課長に対し、所定の届出用紙に「本日一時間残業する予定である」旨を記入し、これを示して残業の申請をしてきた。

これに対して、七々瀬課長が残業の内容を尋ねたところ、〈1〉電話注文による受注書の作成、〈2〉カタログの整理、〈3〉明日の仕事の段取り、であるということであったので、七々瀬課長は、「それであれば、残業をしてまで本日する必要はない。経費削減の折から、残業せず、明日行うように」と指示したところ、控訴人も「それであればこの申請を取下げる」と答えたので、七々瀬課長は、前記届出用紙を控訴人に返却した。

(2) 三月二七日

控訴人は、七々瀬課長に対し、時間外カード(〈証拠略〉)を提出してきた。同カードには二四日、二六日、二七日の時間外勤務が記載されていたので、七々瀬課長が二七日すなわち当日に予定している時間外勤務の内容を尋ねたところ、三月二四日と同様の内容であった。そこで、七々瀬課長は、「〈1〉三月二四日の残業は申請はあったが認めておらず、原告もこれを取下げた、〈2〉三月二六日の残業は申請すらない、〈3〉本日分の残業も必要がない。」旨回答し、同カードも控訴人に返却した。

(四)  昼間休憩時間(午後零時から午後一時まで)については、統括課では、電話の応答要員が常に一名必要であることから、当番一名を決め、同人については、同時間帯に勤務をさせ、その代わりとして午後一時から午後二時まで休憩時間を与えているが、それ以外には、休憩時間中の勤務を命ずることはなく、したがって、本件を除き、統括課で右の時間帯の超過勤務手当の請求がなされた例は存しない。

3  同4は、正しくは左記のとおりであり、これに反する部分は否認する。

(一) 基準内給与(通勤手当を除く)三三万三八四〇円

うち家族手当 一万九二〇〇円

(二) 月平均労働時間 一六二・九二時間

(三) 割増賃金 三万二五九〇円

第三証拠

本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  請求原因について

1  請求原因1は当事者間に争いがない。

2  控訴人は、被控訴人から黙示の時間外労働命令を受けて請求原因2記載のとおり時間外労働を行った旨主張するので、検討する。

成立に争いのない(証拠・人証略)及び弁論の全趣旨を総合すると、

(一)  控訴人は、昭和六三年五月ころ右目偽黄斑円孔に罹患して視力が低下し、目の負担になる作業等を避けるように指導されたため、統括課配転の際、残業はできない旨被控訴人会社に申し入れたこと、そのため、被控訴人会社もできるだけ控訴人に残業をさせないよう配慮してきたこと、控訴人は、本件残業手当請求に先立って、平成四年三月三日、一〇日及び二〇日に、被控訴人に対し、三〇分未満の残業の処理について質問をしたので、被控訴人会社担当者は、控訴人に対し、三〇分未満の超過勤務を切り捨てるようなことはしていないし、右勤務については、各事業所で算出した時間計算に従って時間外手当を支払っている、従業員が、上司が命じた残業を午後五時四〇分から六時一〇分まで行った場合、その事実を上司が確認すれば時間外手当を支給する旨の回答をしたこと、

(二)  平成四年三月二四日の昼ころ、控訴人は、直属の上司である七々瀬課長に対し、所定の届出用紙に同日の就業時間後に一時間の残業をする予定である旨を記入して残業申請をしたこと、七々瀬課長は、控訴人に対し、残業の内容を尋ねたところ、控訴人は、便箋に電話注文による受注書の作成、カタログの整理及び明日の段取りと記載して提出したが、それ以上の具体的内容や理由の説明もなかったため、七々瀬課長は、控訴人に対し、経費節減の折なるべく残業しないように伝えたところ、控訴人は、右残業申請を取り下げたこと、その際、七々瀬課長は、控訴人から、定時内に仕事が終わらず結果として残業となった場合、これを残業と認めるかとの質問を受けたが、営業では事後申請はあるが、統括課では残業を予測できるので、事後の申請は認められない旨答えたこと、七々瀬課長は、控訴人から同月二六日の残業について事前申請を受けたこともないし、右残業をすることを黙示にしても命じたことはないこと、同月二七日、七々瀬課長は、控訴人から同月二四日、二六日及び二七日の本件就業時間後の時間外労働を記載した所定の時間外カード(〈証拠略〉)の提出を受けたこと、七々瀬課長は、右提出の趣旨について控訴人に尋ねたところ、同月二四日と二六日は仕事が終わらず残業したこと、二七日の残業は二四日の残業について控訴人が説明したところと同じだったこと、そこで、七々瀬課長は、控訴人に対し、三月二四日の残業申請は取り下げたし、二六日については事前にも事後にも申請がないし、二七日の残業については認められない旨答え、右時間外カードを返還したこと、その後、控訴人は、被控訴人会社人事課長に対し、七々瀬課長の右処理等に関し、不満を訴えるとともに、同年四月二日に、業務量の増加によって昼休みも仕事をしているとして、本件昼間休憩時間中の時間外労働についての時間外賃金請求をしたこと、控訴人が同年三月二四日、二六日及び二七日の就業時間後も被控訴人会社にいたことはうかがうことはできるが、はたして控訴人主張のような業務に従事したかどうか、その業務が就業時間後に残業して行わなければならなかったものかどうかは極めて疑わしいこと、

(三)  被控訴人会社においては、時間外勤務を行う場合、当該職員は、所定の届け出用紙(〈証拠略〉・時間外カード)に記入して直属の課長にその旨を申請し、課長は、右時間外勤務の必要性を認めたときは、口頭で時間外勤務を命じ、当該職員は、時間外勤務終了後に時間外カードに時間外勤務時間数を記入して課長に提出し、提出を受けた課長は、当該勤務時間の確認をした上、右カードに承認印を押捺するとの手続をとっていること、また、控訴人の所属する統括課においては、時間外勤務の必要性を事前に予測することができるので、事前申請によって処理し、事後に時間外勤務の申請をするとの手続はとっていないこと、

(四)  被控訴人会社統括課においては、昼の休憩時間(午後零時から午後一時まで)の電話の応答要員が常に一名必要なことから、当番一名を決め、同人については、同時間帯に勤務させ、その代わりとして午後一時から午後二時までに休憩時間を与えていること、被控訴人は、控訴人に対し、本件昼間休憩時間中に勤務を命じたことがないこと、

以上の事実を認めることができる。

右の事実によると、控訴人は、被控訴人から黙示の時間外労働命令を受けて本件就業時間後及び昼間休憩時間中の各時間外労働を行ったとの事実を認めることはできないし、また、被控訴人が、控訴人の就業時間後の時間外労働事後申請を認めなかった処置に何ら違法なところはない。

ほかに控訴人が被控訴人から黙示の時間外労働命令を受けて請求原因2記載のとおり時間外労働を行ったとの事実を認めるに足る証拠はない。

3  よって、控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 黒津英明 裁判官 太田敬司)

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